高額分析機器を自分で修理
PCRの装置など,高額な分析機器が壊れて,もう部品がないとか,高額な修理費の見積もりを突きつけられたりした結果,自分で修理してしまったケースがあります。他の研究室の方にも参考になるかもしれませんので,いくつかの事例を披露しておきます。

事例1:PCR装置のフタの加熱ができなくなった
Bio-Radのサーマルサイクラー(iCycler)は何度か修理に出していて,画面の修理など,自分ではできないものもありましたが,一番最近,フタの加熱ができなくなったケースでは,すでに部品がないということで修理してもらえませんでした。そのため,捨てて買い換えるか悩みましたが,だめでもともとと思い,中を開けてみました。フタの後ろには,幅広いリード線の束が出ていて,それが折り曲げられる形で収納されています。フタの開け閉めの際に,リード線が動けるようになっています。そのリード線の束が折れて断線していました。そこで,この線を全部つなぎ直せば使えるようになるだろうと考えました。当然,本来ついていたリード線の束は入手できないので,代わりに,10数本の細い被覆電線を使って,コネクターの配線をやり直しました。ただし,フタは高温になるので,電線が接触しないように,注意を払いました。その結果,装置は無事に稼働し,現在も使っています。当然のことですが,フタを動かすときには,できるだけ丁寧に,ゆっくりと,しかもすこしだけ動かすようにしています。それでも捨てるほかなかった装置が復活したので,大変助かっています。 これを読んで,自分でやってみようという方がいるかもしれませんが,機械の扱いや電気に詳しい方に手伝ってもらってください。あくまでもたまたまうまくいっただけですので,誰でも必ずできるとは限りません。


事例2:リアルタイムPCRのフタの加熱ができなくなった
Applied BiosystemsのリアルタイムPCR装置7300型を永らく使ってきました。これまで故障したことはありませんでしたが,つい最近,上の例と同様,フタの加熱ができないという問題が発生しました。 修理の見積もりは数十万円ということでしたが,そもそもそんな修理費を捻出する余力も無いので,事例1を経験していたこともあり,何とか自力で直そうと考えました。 装置そのものは難なく分解できました。基本的にはパソコンとほぼ同様の構造です。 フタの部分は複雑な構造になっています。リアルタイムPCRでは,上から光をあてて,試料からでた蛍光を測定します。そのため,フタの部分は透明なレンズになっており,それをさらに加熱ブロックではさんでいます。実際に加熱する部分は薄いシートのようになっていて,その中に電気が通る道が埋め込まれています。加熱を繰り返しているうちに,このシートがつぶれて変形し,内部の銅線がはみ出していました。それがまわりにあるねじに接触することで,漏電し,その異常のために,加熱されないようになっていたと思われます。 この部分の部品を交換する修理をすることになるのでしょうが,法外な価格を請求される割には,単純な問題だと思います。はみ出すことによって漏電していた部分を絶縁し,改めてきれいにはめ直しました。なお,レンズ部分を触ると汚れて,測定に影響します。きれいに拭いて,再度組み立てました。 これにより,装置は作動するようになりました。いつまでもつかわかりませんが,応急的な修理としては上出来だと思います。


事例3:TOF-MS装置に付属しているパソコンが故障した
かなり昔に共通機器として購入された島津のAXIMAというTOF-MS装置を使っています。パソコンがいつの間にかダウンしていることが続き,そのうちに起動しなくなりました。これはウィンドウズ2000で動く古いサーバーですが,ネットにつながっているわけでもないので,そのまま使っています。装置はDellのOptiplex GX260というもので,これ自体は今でも中古で入手可能なようです。仮にパソコンを最新のものに交換すると,データを送るボードも交換する必要があり,全部で100万円以上の修理費が必要だといわれました。パソコンを開けてみると,電解コンデンサがいくつもパンクしていました。6.3V 2200µFのものが十数個ついていて,それらがほぼすべてパンクしていました。頭の部分が膨らんで液が漏れていました。そこで,ネット通販で同等のコンデンサを購入し,マザーボードについているコンデンサを一つ一つ半田付けして交換しました。その結果,なんということもなく,パソコンは起動するようになり,TOF-MSも使えるようになりました。約1000円で修理完了です。園がもう一度似た症状が現れ,こんどは1800µFのコンデンサがいくつかだめになっていました。これもまた交換し,現在は快調に運転しています。 この話を読んだからといって,電解コンデンサが何であるのかわからない人は,絶対にまねしないでください。危険です。自分でラジオやパソコンを組み立てた経験が無いと難しいと思います。 ちなみに,このDell製のパソコンは非常に優秀で,HDDなどは別として,他に壊れる部分がないために,電解コンデンサが壊れるまで使うことができていたわけです。普通のパソコンなら,もっと訳のわからない壊れ方をして,修理をする余地は無いと思います。


2017年9月