生命の基本原理を解明するために,生命現象に潜む法則性を見つ け出す(その3)
C 葉緑体の数を維持するしくみ


 最近,研究室で始めた観察に,ヒメツリ ガネゴケの原糸体細胞の分裂の際に葉緑体がどれだけの比率で娘細胞に分配されるかというものがあります。直感的に考えると,細胞分裂によって2つの細胞が 出来るのですから,葉緑体もちょうど同じだけの数が分配されるべきだと思えます。従って,細胞分裂の前に,葉緑体は正確に2倍に増えておかなければならな い,というのが染色体の分配の話から類推される話です。でもこの話はどこかがおかしいのです。というのは,葉緑体はいつでも増えることが出来ます。葉緑体 の大きさも大きいものから小さいものまであり得ます。実際にはだいたい同じくらいに見えるような気がしていますが。葉緑体1個がもつDNAの量は1コピー ではなく,普通は数10から数100コピーに及びます。葉緑体ゲノムの分配を考えれば,細胞分裂の際に葉緑体がどんな比率で分配されてもいっこうに問題は 起きません。
 となると,全くどうでもよいのか,ということになります。こうした観察は,個々の細胞がはっきりと観察できることと,葉緑体をはっきりと識別できること が重要で,その点,植物の葉などは,細胞が積み重なっているので,観察には適しません。コケやシダは,胞子が発芽してしばらく,細長い細胞が先端成長で伸 びていき,先端細胞だけが分裂します。そのうち,横にも分裂して芽をだし,二次元的に成長することで前葉体が出来ます。横に枝分かれするときは,新しく出 来る細胞が小さいので,葉緑体の分配は少ないのかと思うと,実はほぼ半分なのです。どうも葉緑体の分配率をほぼ1/2に保つしくみがあるようです。でもこ の比率は決して50%ではなく,実測は47%位です。これが50%と比べて有意差があるのかどうか,あまり目くじらを立てる必要はありません。というの は,実測データで有意差があるところまで出すのは難しいのですが,別に50%でなければならない必然性もありません。先端側の細胞は根元側に比べてすこし 小さく(短く),葉緑体分配数がすこし少ないのもおかしくありません。いずれ細胞が伸びて大きくなり,その際に葉緑体も分裂して増えることが出来ます。 従って,常に分裂の際の葉緑体分配率が40%であっても,最終的に得られる原糸体の各細胞における葉緑体数は同じになります。根元側の細胞で葉緑体分裂が 起きないとしてもです。
 ちょっと考えたときに変なことでも,
定常状態を考えると,何も不思議はないことになります。

 生物学の世界には,昔の偉い先生が気楽に考えたことが一人歩きして定説になっているということがとても多いと思います。モデルを作ったり実験をして,実 証的に考えることが大切です。

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更新日:December 24, 2008.
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