生命の基本原理を解明するために,生命現象に潜む法則性を見つ け出す(その3)
D ゲノム進化におけるまだらパターン


ゲノムの進化を考えるときには,個別の遺 伝子の配列の進化を考えるというような方法もありますが,ゲノム全体の構造を考えるという見方もあります。ゲノム全体として,どんな遺伝子があるか,遺伝 子の重複や欠失によってどのようにゲノムの内容が変化しているかなどという見方からの研究が行われています。

これに対して,私たちの研究室では,ゲノムの中でそれぞれの遺伝子がどのような位置関係にあるのかということに注目して,進化において保存されている規則 性はないか,調べています。一般に,遺伝子の位置関係というと,オペロン構造のように関連した機能をもつ遺伝子が隣同士並んでいる様子を思い浮かべること でしょう。オペロンを超えたところでは,どのオペロンがゲノムのどこにあっても,転写因子がプロモータを認識して転写制御しているので,位置は関係ない, と思われています。

私たちは,シアノバクテリアの中でも海洋に生息し,地球の二酸化炭素固定の中心的役割を果たしているProchlorococcusという仲間について,ゲノム構造を比較しまし た。この仲間はすでに10種類(エコタイプといいます)以上についてゲノム全体の配列が決められています。これらすべてに共通に保存されている遺伝子につ いて,相互の距離関係がどの程度保存されているのかを,多変量解析を用いて調べてみました。すると,これらの遺伝子のすべてが,エコタイプを超えてお互い の距離をある程度保持していることがわかりました。すでにバクテリアでは,大腸菌や放線菌について,異なる菌株の間で,遺伝子の並び方が基本的に保存され ていることが知られていますが,ここで調べたProchlorococcusの 10種類のエコタイプは,同じ種に属するとはいうものの,大腸菌の菌株などよりはずっと大きな変異をもち,ただ単に見ただけでは,遺伝子の並び方は完全に 保存されているわけではありません。それにもかかわらず,相互の距離関係から7個のグループに分類出来ることがわかりました。これら7個のVLG (virtual linkage group)に属する遺伝子は,複製開始点と複製終結点を両端として,その間でそれぞれ決まった位置を中心として存在しています。これは,従来の遺伝子の 隣接関係だけを見ていた解析ではわからなかったことです。

こうして,ゲノム進化における不変量を見つけることが出来ました。これはゲノム進化の法則性の発見ということが出来ます。

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更新日:December 24, 2008.
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