生命の基本原理を解明するために,生命現象に潜む法則性を見つ け出す(その3)
A ヘテロシスト形成のパターンがなぜ出来るのか


私たちの研究室では,シアノバクテリアを 使った研究をしています。Anabaenaと いうシアノバクテリアは,多数の細胞が連なって糸状体をつくっており,培地中の窒素源がなくなると,ヘテロシストという特殊化した細胞を作ります。ヘテロ シストには気体の窒素を還元してアンモニアにする酵素(ニトロゲナーゼ)があり,光合成による炭酸固定を行う通常の細胞との間で,炭素源と窒素源を交換す ることにより,糸状体全体として窒素と二酸化炭素を食べて暮らしていきます。カスミを食べているという仙人のようですね。ヘテロシストは10個程度の細胞 ごとに1個できます。こうすることで,他の細胞に対して,窒素の供給を均等に行うことができると考えられます。ただし,一度ヘテロシストになった細胞は, 普通の光合成細胞に戻ることは出来ず,また分裂も出来ないので,最終的には老化すれば,捨てられる運命にあります。
 このようなヘテロシスト形成のパターンがなぜ出来るのか,昔から考えられてきました。ヘテロシスト自身は他の細胞がヘテロシストになるのを妨害すると考 えます。それは窒素化合物の供給を介していてもよいわけですが,今では,PatSというペプチド性因子が主にこの役割を果たしていると考えられています。 これは定常的にヘテロシストがある割合で存在する糸状体についてはもっともなように思えます。では,最初にヘテロシストが出来はじめる時にはどうなってい るのでしょう。
 実は,これまで,ヘテロシストが出来る過程をはじめから観察した人はいませんでした。最近になって,ビデオ撮影が容易になって,ようやく出来るようにな りました。というのも,ヘテロシストが出来るには約1日かかり,その間に何度も細胞分裂が起こります。糸状体を構成するすべての細胞が分裂するので,糸状 体全体が伸びてくねくねと曲がって行きます。液体中では細胞が動くため,追跡は困難です。また,寒天培地上では乾燥のため分裂が遅くなることと,糸状体が 曲がってくるので,途中で切れてしまうというような問題が起きます。それをなんとか解決して定時観察をすることが出来るようになりました。ヘテロシストが 出来るのは時間がかかるので,数分おきに観察する必要はなく,1時間から4時間程度の間をおいて観察すればよいのですが,その際,個々の細胞の識別が出来 るように工夫しました。
 そうすると,ヘテロシストが出来はじめるときからパターンがあることがわかってきました。また,最 初にあった細胞が4個ずつの組を作っていて,その両端の細胞がヘテロシストになりやすいこと,一度も分裂することなくヘテロシストになる細胞もあること, などがわかってきました。これらの情報を元に最初のパターンがどのように形成されるのか,モデルを作り計算しています。

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更新日:December 24, 2008.
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