「DNAは二重らせんか,あるいは,DNAはなぜ二重らせんなのか」という問いに対してどう答えるか
1.考慮すべき点
(1) DNAそのものは合成すれば1本鎖のものも作れる。
(2) X線結晶解析によって得られる二本鎖DNAの構造としては,A型,B型,C型,D型,Z型などがある。このうちZ型は左巻きである。
(3) 細胞の中に存在する安定な形態のDNAは,B型の二重らせんである。
(4) 二重らせん構造の基礎となるのは,塩基が水素結合によって対を作ることで,この認識の特異性の高さが,遺伝情報の正確な伝達を保証している。
(5) 二重らせん構造の安定性には,塩基対を作る水素結合の他,塩基対間の相互作用(スタッキング)が重要な役割を果たしている。
(6) 塩基対はさらに外側から水素結合を作ることが可能で,これを利用して3本目のDNA鎖や転写因子が結合する。
(7) 細胞の中には,特定の場所,特定の時期,特定の場面で,二重らせんではないDNAの構造が出現する。たとえば,
組換え:3重鎖DNA,Holliday中間体
テロメア:4重鎖DNAまたはDループとTループ
(8) DNAを複製するのは,DNAポリメラーゼであるが,これは,鋳型とプライマーを必要とする。従って,生体内でDNAが作られるときには,必ず既存のDNA鎖を鋳型として2重鎖の形で合成される。
(9) 二重らせんとはいうものの,生体内でのDNAは,B型二重らせんがさらにスーパーコイルを作った超らせん構造をとっている。これが可能なのは,らせんの構造自体,余分に巻いたり巻き戻したりができるためである。
(10) 塩基配列や転写因子の結合などにより,DNAの二重らせん構造は大きく折れ曲がることがある。
2.こうして考えてみると,二重らせん構造の必然性やその意義が見えてくる。
(1) DNAそのものが二重鎖でなければならないわけではないが,生体内では必ず二重鎖として合成される。その場合,DNA二重鎖の自然な構造はB型二重らせんである。
(2) 二重らせん構造は巻き方を変えるたり折れ曲がったりすることが可能で,遺伝情報の保存や読み出しなど,遺伝情報保持のさまざまな局面に対応して変化することが可能である。
(3) いつも二重鎖であるばかりでなく,必要に応じて3重鎖構造もとることができることによって,組換えなどが可能になっている。
(4) 同様に,二重らせんの溝には,転写因子が結合することができ,遺伝情報の読み出しができるようになっている。