RNADNA

2006116

考えるポイント

1.現代生物学におけるRNAの位置づけ

いわゆる「セントラルドグマ」,すなわち

DNA --> RNA --> タンパク質

という遺伝情報の流れにおいて,RNADNAの一部の情報のコピーにすぎないように見える。その場合,生物の情報の全体を含むゲノムDNAのうちの一部分のコピーがRNAであり,多数のコピーを作ることにより,たくさんのタンパク質の生産が可能になる。また,真核生物では,mRNAは細胞核にある染色体と細胞質にあるリボソームの間での情報の橋渡しをすることになる。この話の中では,rRNAtRNAにはあまり積極的な役割が与えられていないようである。

2.生命の起源とRNAワールド

生命の起源については諸説あるが,現存する生物のように遺伝情報としてDNAを機能分子としてタンパク質をもつというような生物が最初からできたとは考えにくい。原始的な生命の形として,RNAが遺伝情報と機能分子の両方の作用を行うものが考えられている。このような生命体が存在したであろう世界をRNAワールドと呼ぶ。

3.RNAの触媒作用

すでに知られているRNAの触媒作用(リボザイム活性)には以下のものがある。

(1) テトラヒメナのrRNAの自己スプライシング

(2) RNase Pの活性を担うM1 RNA

(3) リボソームのペプチド結合生成活性(大サブユニットを構成する23Sまたは28S rRNA

4.リボソームを中心とした増殖系の設計

細胞活動を実際に担うのは酵素タンパク質であるが,そのタンパク質を合成するのがリボソームである。リボソームはタンパク質合成装置として,ゲノムそのものとは独立した存在と見ることもできる。リボソームを中心として考えるならば,最小限の増幅系としては,

tRNAの一セット,アミノ酸,ATP

アミノアシルtRNA合成酵素

mRNA

があれば,無限にタンパク質を合成する系ができる。

もしもリボソームそのものをふやしていくのであれば,リボソームタンパク質とアミノアシルtRNA合成酵素をコードするmRNArRNAが必要となる。その場合は,リボソームだけではRNAを合成する手段がない。RNAからRNAを作ることができればDNAは必要ないが,RNAから一度DNAにして,それからRNAを作るようにしてもよい。

5.リボソームが自分のコピーとしてゲノムを維持しているという見方はできないだろうか。少なくとも,リボソームとゲノムが互いに依存しあう共進化系を作っているということはできそうである。


化学進化学説

 

1924年 オパーリン(ロシア)の「生命の起源」

1953年 ミラーの放電実験(還元的大気からのアミノ酸の合成)

原始大気は酸化的(N2, CO2, CO, H2Oなど)

深海の熱水噴気孔が生命のふるさと(高圧高温におけるアミノ酸の合成,200気圧300℃くらい)

生体物質の化学合成

核酸塩基: HCNの重合 (アデニンはH5C5N5

リボース: HCHOの重合 (C5H10O5

(デオキシリボースは自然にはできない。六炭糖では正確な塩基対も二重らせん構造もできない)

光学異性体の合成は,岩石結晶表面でおきた

ATP, NAD, FADなど補酵素にはRNAと類似の構造を持ったものが多いことも,RNAが原始生命体の主要な成分であったことの証拠とも考えられる。

リボザイムはRNAの触媒作用の実証

1981年 リボザイムの発見(self-splicing)

1983年 RNase P リボザイムの発見

この他,viroidも自己切断反応を起こす(hammerhead型リボザイム)