フラ語とるかしこさ
東京大学の理科生なら第2外国語はフランス語だね (その2)
ともかく,大学では英語の履修が義務づけられていますが,第2は選択できます。ところが,これまで,第2外国語の選択は入学手続きの段階で行われていて,
どれを選択するのがよいかというガイダンスが全くありませんでした。理科生だと第2などどうでもよいので簡単そうな中国語にしようという学生もあります
し,スペイン語も結構人気です。でも考えて下さい。自然科学の記述言語が英語だけになったのはごく最近のことで,少なくとも50年前くらいまでは,フラン
ス語とドイツ語も同じくらい重要な自然科学の言語でした。だから皆さんがよく知っている科学者の論文はたいていドイツ語かフランス語です。英語で書いたの
は(まだアメリカが強国になるまえなので)イギリスの学者だけでした。物理学なら量子力学や相対論をつくったハイゼンベルク,ボーア,アインシュタイン,
シュレーディンガーなどなどみなドイツ語で論文を書きました。化学でもリービッヒなど有機化学はドイツばかりでした。生物学では細胞説を唱えたシュワンと
シュライデンを始め,ネーゲリ,メンデル,ザックスなどみなドイツ語で書いています。
フランス語で書かれたものもたくさんあります。フランス人の業績をざっとさがしてみると,このようなものがあります。
アンペールの法則(電磁気学),シャルルの法則(熱力学),パスカルの原理(流体力学:パスカルの三角形やパスカルの定理は数学),フェルマーの原理(光
学:フェルマーの最終定理は数学),ラウールの法則(熱力学),リウヴィルの定理(解析学,解析力学),ルシャトリエの原理(熱力学)
この他にも,デカルト(数学),ラボワジエ(化学),ラマルク(生物学),パストゥール(生物学),カルノー(熱力学),マリー・キュリー(ポーランド出
身,物理学,化学),ルイ・ド・ブロイ(物理学),などなどたくさんあります。
もちろん英語で書かれたものもあり,力学と微積分学を作ったニュートン(イギリス),酸素を発見したプリーストリ(イギリス),遺伝学の基礎を作ったモル
ガン(アメリカ)など,新しいところでは,DNAの二重らせん構造を提案したワトソンとクリックの論文もNature誌に英語で書かれています。その他,
ガリレオ,ガッサンディ,トリチェリー,ボルタなどイタリア人も多いし,メンデレーエフのようなロシア人も有名です。それに,19世紀以前の学術論文はラ
テン語で書かれたものも数多くありました。コペルニクスの天動説もラテン語で書かれていました。つい最近まで,生物の分類の基本となる記述はラテン語でし
たが,一部について英語に変わりました。しかし,ほとんどの生物の分類基準の記述はもとはラテン語です。
このように,現代の自然科学だけなら英語でよいのですが,いま皆さんが使っている概念をもとをたどって理解しようとすると,どうしても他の言語が必要にな
ります。その場合,残念ながら,中国語,韓国語やスペイン語はめったに出てきません。文科系ならありますけど。
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