めぐりめぐむ生命(その5)
生命のサイクル
もっとほかにも「めぐって」いるものがある。それは生物がもつ内在性リ
ズム(生物時計)である。ほとんどの生物はさまざまな周期の固有リズムをもっている。およそ24時間の周期(概日リズム)は,地球上で暮らすのには好都合
な周期性であるが,その他にも,一ヶ月ほどの月の満ち欠け(潮の満ち干)の周期や,一年にわたるリズムもある。これらは,地球の自転や公転の影響を生物に
とって都合のよいように利用するしくみとして出来たものであるので,天体がめぐっていることの反映ということになる。
それぞれの生命個体では,ライフサイクルがある。この言葉は,人間の一生を表すときには,個体の発生,成長と繁殖によるサイクルを表す。同じような言葉
は,単相と複相のあいだを行き来する生活環の意味にもなる。この場合,シダ植物やコケ植物などが,一倍体世代と二倍体世代の間を回っていることを指す。ヒ
トなどの動物でも世代交代を定義できないことはないが,一倍体世代がきわめて短いので,実質的な意味がなく,世代交代としては考えられない。もう少し大き
なスケールで考えると,生態系がある。さまざまな生物が食物連鎖で結びついているが,一次生産者から捕食者,分解者を経て,物質は循環している。
では進化などは一方的に時間が流れるのにつれて新しい生物種が生まれるように思われるのだが,ここまでくると生命はめぐっていないのだろうか。進化とい
うのは結果だけをみると単純な生物から高等な生物が出来てきたように見えるが,実際には,たくさんの「失敗作の」生物が絶滅することによって成り立ってい
る。絶滅していった生物種は,自らの運命を生き残った他の生物種に託したという意味で,もう一つのキーワードである「めぐむ」という概念につながってい
る。このとき絶滅した種が辿った,種分化により生まれ,ある程度繁栄し,その後,滅びていったという経過は,黙って滅びたのではなく,他の種の優位性を実
証したという意味において,上のライフサイクルという概念に当てはめて考えることができる。ラグビーで,ボールを次々に後から来る選手に渡しながら,結果
的にはボールは前進し,最後にはトライを決めるというのに似ている。
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Last update: Mar. 26, 2009
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