生命の基本原理を解明するために,生命現象に潜む法則性を見つ
け出す(その2)
まずは,「生命とは何か」
と「なぜ多様な生物がいるのか」について,私たちが行っている取り組みを説明しましょう。
生命は,機械のように使い古せば壊れてなくなるものではなく,成長・増殖・進化という異なるタイムスケールにわたって永続性を維持している自律的サイクル
です。また,その駆動力は究極的には太陽の光エネルギーですが,地球環境の変化や生物間相互作用による進化も考えなければなりません。そこで,光を含む諸
環境と生命機能との関係を求めれば,はじめの問の解答になるはずと考えることにします。生命現象の理解が物理現象の理解と異なるのは、物理現象が一回性の
事象における因果関係をもとに考えるのに対し、生命現象はすべて繰りかえすものであって、繰りかえしのなかで進化による選択を受けた結果であるという意味
で、永続性によってなりたっているからです。一般の物理現象がエネルギーによって最適化されるのに対し、生命では繰りかえせないものは残っておらず、ま
た、進化による選択は歴史的偶然に支配されるゲームであるという点が違います。最近では、こうした生命の特徴を解明する物理学も始まっているようです。
そこで,私たちは,光合成生物の葉緑体を全生命システムの最も単純な縮図と考えることにより,細胞の構造・機能・進化の基本原理を解明しようと,計算(バ
イオインフォマティクス)と実験(分子生物学・生化学)の両面からとりくみ、細胞レベルと多細胞体レベルおよび進化のレベルでの研究をおこなっています。
細胞的生命の最少システムとして葉緑体を位置づけ,
光合成とオルガネラに関する機能ゲノム学として,以下のような研究を行っています。詳しくは,このリンクをご覧ください。
生命は光エネルギーの流入による大きなエネルギーの流れによって駆動された複雑な歯車のようなものです。
これにより,代謝サイクルがまわり,さらに細胞周期が駆動されます。
これらのすべてが凝縮された葉緑体のゲノム装置の機能,複製,膜形成,分裂などを全体として理解しようとしています。
材料では,シアノバクテリア,紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン),緑藻Chlamydomonas
reinhardtii,
ヒメツリガネゴケ,シロイヌナズナ,エンドウなど多彩な材料を使っています。その一部はメインウィンドウの右上に交互に表示されています。また,メイン
ウィンドウ中央の白い領域「研究紹介」の中の青い文字をクリックするとそれぞれに関連した内容が表示されます.
これらの大部分は,そのゲノム配列が解明されたものです。 とくにシゾンは葉緑体が核を飼っているような細胞で,私たちの研究に最も適した材料です。
なお,色素体の形態学と分裂に関する研究は,藤原助教を中心として進められています。
多細胞体のレベルの研究は,従来からの他のレベルでの研究成果の蓄積にもとづいて,本年度から開始
したものです.細胞間の相互作用は,セルオートマトンを拡張して考えることが出来ます.細胞間の相互作用ニより,一個の細胞では出来ない複雑な情報処理が
可能になります.細胞分化などはその例で,元々連続量であるシグナル分子の濃度を入力として,「全か無か」の応答を得ることが特徴です.こうしたポジティ
ブフィードバックの例として,シアノバクテリアの細胞分化のほか,クラミドモナスの生物対流,葉のふ入りなどを研究しています.細胞間の相互作用をうまく
利用することにより,脳のもつ機能を植物細胞で実現することも可能になると考えています.これについては,近いうちに詳しい説明をアップすることにしま
す.
進化のレベルでは,比較ゲノムにもとづく植物の系統解析を進めています.多種の生物のゲノムに含ま
れるタンパク質遺伝子の比較ゲノム解析の結果に基づいて,
光合成生物に保存されたタンパク質を多数発見し,その機能解析をそれぞれの生物を使って平行して進めています。単に配列の比較だけに頼らない進化の解析を
目指しています. 比較ゲノムのツールとして,Gclustと
いうソフトを開発しています。 これをふくめ,各種オリジナルソフトについては,メインウィンドウの「ソフトウェア」にでています。
さて,計算と実験を融合させて,生命現象の中に潜む法則性を見つけ出すということについて,次に説明します。
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更新日:December 24, 2008.
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